又吉直樹「火花」

やっとピース又吉「火花」を読みました。

 

読みたいなあと思いつつ、ハードカバーで冒険する気にははなれない。文庫で出てすぐに購入するも、いまいち気乗りせず他の本が優先され何度も後回しにして、今日。

 

気持ちも悪いしお腹も痛いし、熱もあるしで会社を休んでしまった。

一日家で休むことに決めたけど、何もせずに寝ているのは落ち着かない。活字が読みたいけどスリルアクションサスペンス、空飛ぶ明るいファンタジーの気分じゃない。そんなタイミングだったので、軽めの純文学だろうと当たりをつけて火花を読むことに。

 

 

火花 (文春文庫)

火花 (文春文庫)

 

 

 

見立ては当たり、純文学が私のところまで下りてきてくれた、というのが第一の感想です。

大雑把に言うと若手のお笑い芸人である主人公が熱海の花火大会で出会った別事務所の先輩に惹かれ、弟子となってから10年。その10年の間に二人の立場も環境も関係性も大きく変わってしまう・・・というあらすじ。(詳しくは読んでください)

 

いるよね、こういう人。

強烈に個性的で、一般的な「素晴らしい人」ではないけど絶対敵わないと思わされるような人。

この人は他の人では替えがきかない唯一の何か、価値のあるものを持っているんだと思わされるのに、その代償なのか強烈すぎて「世間一般」に受け入れられない人。

主人公の先輩である「神谷さん」はそういう人だったので、世間一般に受け入れられず成功することはできませんでした。

 

あれだけ価値があると思って、すてきだと思って、こんな人はほかにないと思っていたけど、先輩は神じゃないから、ずっと上手くいかないと訳が分からなくなってしまうんだよね。他人の悩み、迷走、混乱、絶望って感じにくいけど、最後巨乳になって読者と主人公を仰天させる先輩はだからやっぱり、価値がある人だと思う。

どこからどう見てもどうしようもないあほんだら(コンビ名)だけど。

 

愚かで強烈で、その哲学を貫いて生きているんだけど、先輩が先輩である結果自分の望みを自分で遠ざけてしまう。悲しくて価値のあるその滑稽さが好きで、じわじわと皮膚からしみ込んできて痛めつけられるような心地よさがありました。

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そもそも純文学とは何なのか、私にはよく分からないんですよね。

辞書で調べて、何となく「芸術のための文学が純文学である」と理解しています。

じゃあ芸術って何だ?と聞かれた時、今の時点での私は芸術とは人の心を震わせるものだとも答えます。

しかしカフカドストエフスキーバルザックなど、名高い純文学を読んでもちっとも心は震えませんでした。春琴抄の文章世界の美しさに大興奮したのと、苦役列車の蛇口を捻ると薄めの泥水が出てくるような感覚に少し惹かれたくらいです。

 

自分にとっての「芸術」と「純文学」がうまく結びつかずしっくり来ていなかった、純文学という言葉をどこか遠いもののように感じていた私にとってこの「火花」は分かりやすく受け入れやすく、とても親切な作品でした。

 

 

西加奈子は好き。

 

おわり